谷川俊太郎
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 空の青さを見つめていると 谷川俊太郎 空の青さをみつめていると 私に帰るところがあるような気がする だが雲を通ってきた明るさは もはや空へは帰ってゆかない 陽(ひ)は絶えず豪華に捨てている 夜になっ…
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 自分を贈る 谷川俊太郎 母の日に 花を贈るのを忘れてもいい 母の日には あなた自身を贈ればいい あなたが誕生した日 母はあなたに世界を贈ってくれた この世界のどこかでずっと 母はあなたとともに生きてい…
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 かなしみ 谷川俊太郎 あの青い空の波の音が聞えるあたりに 何かとんでもないおとし物を 僕はしてきてしまったらしい 透明な過去の駅で 遺失物係の前に立ったら 僕は余計に悲しくなってしまった おやすみなさ…
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 三月のうた 谷川俊太郎 わたしは花を捨てて行く ものみな芽吹く三月に 私は道を捨てて行く 子等のかけだす三月に わたしは愛だけを抱いて行く よろこびとおそれとおまえ おまえの笑う三月に おやすみなさい
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 せつな 谷川俊太郎 テーブルのうえにあったいちまいのかみ へやのドアをあけたらふわりとゆかへ くうきにささえられながら みぎひだりにすべるようにゆれておちてゆく そんなどうでもいいできごとがすき な…
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 ここ 谷川俊太郎 どっかに行こうと私が言う どこ行こうかとあなたが言う ここもいいなと私が言う ここでもいいねとあなたが言う 言ってるうちに日が暮れて ここがどこかになっていく おやすみなさい。
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 朝のリレー 谷川俊太郎 カムチャツカの若者が きりんの夢を見ているとき メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき ローマの少年は 柱頭を染め…
静かに ゆっくりと 言葉を声に出してみましょう。 生きる 谷川俊太郎 生きているということ いま生きているということ それはのどがかわくということ 木もれ陽がまぶしいということ ふっと或るメロディーを思い出すということ くしゃみをすること あなたと手…