そしてかぜまかせ

日々穏やかに過ごすために心を落ち着かせよう

詩の朗読40. 散歩

 

 
 静かに

 ゆっくりと

 言葉を声に出してみましょう。

 

 

 

 

 

 散歩

     長田弘

 

 ただ歩く。手に何ももたない。急がない。

気に入った曲がり角がきたら、すっと曲がる。

曲がり角を曲がると、道はさきの風景がくるり

変わる。くねくねとつづいてゆく細い道もあ

れば、おもいがけない下り坂で膝がわらいだ

すこともある。広い道にでると、空が遠くか

らゆっくりとこちらにひろがってくる。どの

道も、一つ一つの道が、それぞれにちがう。

 街にかくされた、みえないあみだ籤の折り

目をするするとひろげてゆくように、曲がり角

をいくつも曲がって、どこかへゆくためにで

なく、歩くことをたのしむために街を歩く。

とても簡単なことだ。とても簡単なようなの

だが、そうだろうか。どこかへ何かをしにゆ

くことはできても、歩くことをたのしむため

に歩くこと、それがなかなかにできない。こ

の世でいちばん難しいのは、いちばん簡単な

こと。

 

 

 

 

 おやすみなさい

 

 

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