そしてかぜまかせ

日々穏やかに過ごすために心を落ち着かせよう

詩の朗読55.眼にて云う

 

 
 静かに

 ゆっくりと

 言葉を声に出してみましょう。

 

 



 

 眼にて云ふ

          宮沢賢治 

 

だめでせう

とまりませんな

がぶがぶ湧いてゐるですからな

ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから

そこらは青くしんしんとして

どうも間もなく死にさうです

けれどもなんといゝ風でせう

もう清明が近いので

あんなに青空から

もりあがって湧くやうに

きれいな風が来るですな

もみぢの嫩芽と毛のやうな花に

秋草のやうな波をたて

焼痕のある藺草のむしろも青いです

あなたは医学会のお帰りか何かは知りませんが

黒いフロックコートを召して

こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば

これで死んでもまづは文句もありません

血がでてゐるにかゝはらず

こんなにのんきで苦しくないのは

魂魄なかばからだをはなれたのですかな

たゞどうも血のために

それを云へないのがひどいです

あなたの方からみたら

ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが

わたくしから見えるのは

やっぱりきれいな青ぞらと

すきとほった風ばかりです。

 

 

 

 

 おやすみなさい

 

 

詩の朗読54.木陰

 

 
 静かに

 ゆっくりと

 言葉を声に出してみましょう。

 

 

 

 

 

 木陰

      中原中也 

 

神社の鳥居が光をうけて

楡(にれ)の葉が小さく揺すれる

夏の昼の青々した木蔭(こかげ)は

私の後悔を宥(なだ)めてくれる

 

暗い後悔 いつでも附纏(つきまと)う後悔

馬鹿々々しい破笑(はしょう)にみちた私の過去は

やがて涙っぽい晦暝(かいめい)となり

やがて根強い疲労となった

 

かくて今では朝から夜まで

忍従(にんじゅう)することのほかに生活を持たない

怨みもなく喪心(そうしん)したように

空を見上げる私の眼(まなこ)――

 

神社の鳥居が光をうけて

楡の葉が小さく揺すれる

夏の昼の青々した木蔭は

私の後悔を宥めてくれる

 

 

 

 

 おやすみなさい

 

 

詩の朗読53.元旦

 

 
 静かに

 ゆっくりと

 言葉を声に出してみましょう。

 

 

 

 

 

 元旦

      新川和江 

 

どこかで

あたらしい山がむっくり

起きあがったような……

 

どこかで

あたらしい川がひとすじ

流れだしたような……

 

どこかで

あたらしい窓がひらかれ

千羽の鳩が放されたような……

 

どこかで

あたらしい愛がわたしに向かって

歩きはじめたような……

 

どこかで

あたらしい歌がうたわれようとして

世界のくちびるから「あ」と洩れかかったような……

 

 

 

 

 おやすみなさい

 

 

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